夢を忘れた眠り姫
貴志さんは無言で私をじっと見つめて来た。


「あ。か、勘違いしないで下さいね?決してお父さんの肩を持つつもりはないんです。ただ、その心理状態を客観的に考察しているだけで…」
「だったら…」


私の言い訳を途中で遮るようにして貴志さんは再び語り出した。


「隅谷家に留まる選択をしたのだったら、母親とはきっぱりと別れ、本妻達に愛情を注ぐべきだった。本当の家族を大切にするべきだった。そして母親も、本当にアイツを愛していたのなら、婚約を解消する気はないと分かった時点で潔く身を引くべきだったんだ」

「……そうですね」


至極もっともな意見だと私も思う。

でも…。


「だけどアイツらは何も妥協することなく、『あれもこれも』と手を伸ばし、結果、良いとこどりに成功した。それなのに、さも報われない、思い通りにならない人生を歩んでいるかのように振る舞っているのが超絶に鼻につくんだ」


人間の心っていうのは、そうそう理屈通りにいくものではなくて…。


「他人を傷付けているという事実から目をそらすな。自分が加害者であるという自覚をしっかりと持て。自分達の罪をまるで美談であるかのように表現するな。本妻と息子に対し、一生懺悔の気持ちを抱きながら、小さく慎ましく、勘違いせず図に乗らず生きていけと強く思う。もちろん、俺自身も」
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