夢を忘れた眠り姫
自分の世界に入り込み、鬼気迫る表情で目の前の空間を凝視しながら言葉を吐き出していた貴志さんは、今さらながらに私の存在を思い出したかのようにこちらに視線を配った。

そして、返す言葉が思い浮かばず、さぞかし情けない表情になっているであろう私の顔を見てハッと我に返る。


「……わるい」


眼鏡を右手で押し上げつつ、掠れた声で貴志さんは呟いた。


「我ながら興奮し過ぎてしまった。こんな愚痴を聞かされても、困っちまうよな」

「い、いえ…」

「何だか疲れた…」


ため息混じりにそう呟いたあと、貴志さんはゆっくりと立ち上がった。


「ちょっと、夜まで仮眠を取ることにする。君は君で、適当に過ごしていてくれ」


言いながら、リビングの出入口へと歩を進めた。


「あ、はい…」

「アイツらのこと、偉そうに散々言いまくったけど…」


ドアの前まで到達した貴志さんはそこで立ち止まり、向こう側を向いたまま、静かに言葉を発する。


「俺はそんな奴らの血を受け継いでいて、結局はその権力や財力に守られてぬくぬくと育った、最も罪深い存在なんだよな…」


思わず絶句してしまっている間に、彼は足早に歩き出し、リビングを出て行った。

そのまましばらくぼんやりとしてしまったけれど、ハッと我に返り、いつまでもここにこうしていても仕方がないと思い直して立ち上がる。
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