夢を忘れた眠り姫
「どうする?彼のこと待ってる?」

「それなら私達は先に行ってるけど」

「え!?い、いえ、とんでもないです」


私は左手をぶんぶんと振りつつ慌てて否定した。


「貴志さんには貴志さんのペースがあるでしょうし、ここは職場ですから。業務上必要がないのに、わざわざ行動を共にしたりはしません」


高校生カップルの部活動帰りじゃあるまいし、そんなこっ恥ずかしいマネができるかっての。

……そもそも、私達はカップルでさえないんだから。


「おお、そっか」

「さすが永井さん。若いのに、浮わついてなくて公私の線引きがしっかりしてるわー」

「い、いえ…」


そんな会話を交わしながら私達は歩き出し、「おはよう」「おはようございます」と口々に言いながら貴志さんの傍らを通り過ぎた。


「おはよう…ございます…」


相変わらず不思議顔のまま、とりあえず挨拶を返す貴志さんに、通りすがりに『後で説明しますから』とこっそり目配せをし、私はお二人の後に続いて廊下を進んだ。


「そういうことだったんだ」


一日の業務をやっつけ、帰りもあえて時間差で行動し、私の約一時間後に帰宅した貴志さんをリビングに招き入れ、彼がソファーに、私がダイニングの椅子に腰かけたのと同時に朝のいきさつについて解説する。


「どうりで、課内の人間はもちろん、更衣室や自販機の前なんかで会った人達に意味ありげな視線を向けられると思った」
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