夢を忘れた眠り姫
「そうだな。そういう流れなら、もし君が社内の他の人間と付き合うことになった場合、相手が強いわだかまりを持つこともないだろうし」

「貴志さんの方も」

「いや、俺は…」


一瞬言葉を切ってから、彼はキッパリと宣言する。


「これから先、恋人を作るつもりなんてサラサラないから」

「え…」

「学生時代は告白されて気の迷いで付き合ってしまったこともあったけど、でも、それは責任の度合いが今とは比べ物にならなかったからだし。『きっと卒業したら自然消滅的に別れるだろうな』って思っていて、実際にそうなった」


貴志さんは淡々とした口調で言葉を紡ぐ。


「だけど社会に出たらそうはいかない。たいていの人は年を取るのに比例して、交際相手との結婚を望む気持ちがどんどん肥大化して行くだろうし。とてもじゃないけど怖くて付き合えないよ。あの両親を見て育った身からすれば、夫婦や家族というものに対してこれっぽっちも憧れなんか抱けないし」


声のトーンとは裏腹に、内容がヘビー過ぎて返答が難しく、思わず黙りこくってしまった私をよそに、貴志さんはさっさと話のまとめに入った。


「だから俺は一生気ままな独身でいるつもりだ。そんな訳で、対外的には君が俺の人生で最後の恋人って事になると思う」


そして勢いよく立ち上がる。


「さて、と。そろそろ夕飯にしようか。あ、俺はソファーの方で食べるから、君はそのままそこを使って」
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