夢を忘れた眠り姫
「お金の話なんて抵抗があるかもしれないけど、俺にはそれくらいしかお返しできるものがないから。労働に対する正当な報酬として、希望額を提示して欲しい」


何だかまるで取引先と商談しているかのような内容だな、と思いつつ私は返答した。


「えっと…。ん~、それじゃあ、300円で」

「え?そんなもんで良いの?」

「はい」


私はコクりと頷く。

単純に一品百円で計算したのだ。

ご飯はとりあえずサービスってことで。


「こんな美味い定食、300円じゃ食べられないよ。ラッキー」


微笑みながら貴志さんが発した言葉に気を良くした私は、思わずノリで自分でも驚きの提案をしてしまった。


「何だったら、これからも私が作りますよ」

「へ?」

「まとめて作るのは慣れてますから。大した手間ではないです」


適度に距離を保って接していこうと思ってたのに。

それぞれの生活には踏み込まないという約束だったのに。

その条約を緩和するような事を自ら言ってしまうなんて、ホント、びっくり仰天。


「むしろ、作る量が増えれば増えるほど料理一品の単価は下がって行きますからね。で、貴志さんにも材料費を折半していただくと。それならお互いにお特だと思いません?」

「なるほど…」


貴志さんはウンウンと頷きつつ話を引き継いだ。
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