夢を忘れた眠り姫
とはいえ仕事始めの週の末日ということで、やはりそれなりに忙しく、一段落ついた時には定時を小一時間ばかり過ぎていた。

後片付けをし、まだ残っている人達に「お先に失礼します」と声をかけながらフロア内を横切る。

その中には貴志さんの姿もあって、さりげなくその動向を確認すると、デスク周りの整理整頓を始めた所だった。

という事は、数分後には彼もここを出るという事だ。

帰宅時も当然私達は別々に行動している。

さっさと帰り支度をして会社を出て、貴志さんに追い付かれないようにしないとな。

多分彼は彼で、ある程度時間を置いてから電車に乗るのだとは思うけど。

でも、それを期待してのんびりだらだらと行動していてはダメだよね。

先に出発した方は、できる限り速やかに家路を辿らないと。

そんな風に自分自身を急かしながらロッカールームで身支度を整え会社を出て、駅へと向かった。

電車に揺られて目的地で降り、マンションに向かってせかせかと歩き、人の往来が少なくなる場所まで来たその時。

突然、何かの啓示を受け、私は足を止めて勢いよく振り向いた。

朝と同じシチュエーション。

しかし、今度こそ私は正しい行動が取れた。


「何かご用ですか?」


街灯の下、数メートル後方から俯き加減に歩いて来る、黒髪短髪、30才前後で若干小太りのその男性に向かって強い口調で問い掛ける。


「……え?」
< 179 / 277 >

この作品をシェア

pagetop