夢を忘れた眠り姫
「はい、貴志です」


またもや結末まで言い切る前に中断されてしまった…。

来訪者(十中八九ベンさん)に呼び掛ける貴志さんの背中を見つめながら思う。

でも、ま、いっか。

ベンさん本人にきちんと自己紹介してもらえば。

そう自分を納得させつつ、ベンさんの分のお茶を淹れるべく、私はキッチンへと向かった。

ほどなくして私達の部屋にたどり着いた彼は、右手に大きなビニール袋を提げていた。


「駅前の店が目について、ついつい買って来ちまった」


袋に印刷されている、人生の中で数えきれないくらい目にして来たお馴染みのロゴマークと、それ越しでも強烈に漂って来る芳しい香りにより、中身が世界中の人々に愛されている、独自のレシピによって作り上げられた鳥の揚げ物であるということは一発で分かった。


「すっげー腹へってんだよ。悪いけど、これを食いながら話させてもらうから」


袋をテーブルの上に置きながらベンさんは言葉を繋ぐ。


「あ、あれこれどっさり仕入れて来たから、二人ももちろんつまんでくれよな」

「ありがとうございます」

「そうですよね…。夕飯時ですもんね。ホントすみませんでした」


改めて謝罪した後、ベンさんにはソファーに座ってもらい、私はチキンの取り分け用の皿を取りに再びキッチンに向かった。


「…声だけじゃなくて、見かけも若いんだな」
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