夢を忘れた眠り姫
「んじゃ、その手続きについては後日改めて。ゆめちゃんはもうあんたとは接触したくないだろうから、俺が代理で示談書持って会いに行くから。あ、事務所の方は把握してるから、自宅の住所を教えといてくれるか?」


言葉を繋ぎながらベンさんは立ち上がり、自分が最初に座っていた席から鞄を回収して来ると、再び私の隣に腰かけ、中からメモ用紙とボールペンを取り出した。


「ここに記入よろしく」

「は、はい」


ベンさんの促しに素直に従い、探偵はせっせとペンを走らせる。


「…ん、確かに。近日中に連絡するからよろしく。あ、あんたに調査を依頼した人物の連絡先も後で教えてくれな。俺の方から話があるから」


そのメモをシステム手帳に挟んで鞄に仕舞いながらベンさんは続けた。


「念のため言っておくけど、くれぐれも逃亡なんかしないように。そんな事しても無駄だから。所在が掴めなくなった時点で即通報する。警察に本腰入れて探されたら、あっけなく捕まるぞ」


すっかり生気が無くなった表情で、ガックリと肩を落とし、ソファーにもたれかかっている探偵に向けて、ベンさんは更に容赦なく言葉をぶつけた。


「なにのんびりしてるんだ?今日の話し合いはもう終わった。ゆめちゃんの精神的苦痛になるからとっとと帰ってくれ」


探偵はビクッとしながら立ち上がり、震える足取りでドアまで歩を進め、そのまま店を出て行った。
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