夢を忘れた眠り姫
「ありがとうございましたー」


おそらく不穏な空気は感じ取っているハズだけど、普段と何ら変わらぬ声音で客に見送りの挨拶をする店長さんとウエイトレスさんにプロフェッショナル魂を感じる。


「はい、一丁上がり」


なんて事を考えていると、隣のベンさんが快活に言葉を発した。

探偵の後ろ姿を追っていた視線を彼に向けると、とても晴れやかな表情を浮かべている。


「まぁ、まだやるべき事は残ってるけど、ひとまずゆめちゃんがアイツに悩まされる心配はもう無くなったから」

「ありがとうございました…」


私は胸に手を当て、ホッと息を吐き、心の底から感謝の意を述べた。


「早い段階でベンさんに相談して…。ううん。この人生で、ベンさんに出会えた事自体、本当に良かったと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


ニッと満面に笑みを浮かべたあと、ベンさんは仕切り直し、という感じで「さて」と続けた。


「いつまでもほのぼのしんみりまったり気分に浸っている訳にはいかないんだよな。示談書作成についての打ち合わせと、今日予定していた当初の目的を果たさないと」

「あ、そうですね…」

「ちょうど昼飯時に差し掛かるし、何か食いながら話そうか」

「はい」


コーヒー一杯だけで長居するのも申し訳ないもんね。
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