夢を忘れた眠り姫
私の位置からだと手元までは見えないけれど、隣のテーブルに移動し、カチャカチャと音を立てながら動いていたので間違いないだろう。


「すみませんでした」

「いいえー」


私の対面の席に移動したベンさんが、体を乗り出して謝罪の言葉を口にすると、ウエイトレスさんはペコリと会釈しながらそう返した。


「食事が来る前に一応貴志さんにメールしとくか。きっとそわそわしながら俺達の帰りを待ってるだろうから」


彼女が去ったあと、元の席から自分のコートを回収し、ソファーに座り直しながらベンさんが提案した。


「電話ではなく?」

「直に話すとなんやかんや質問されるかもしれないだろ?どうせここでは詳しい説明はできないんだし『話し合いは無事終わった。詳細は帰ってから』って取り急ぎ伝えるだけで良いと思う」

「なるほど。そうですね」


返答しつつ鞄からケータイを取り出したベンさんにその役目はお任せし、「ちょっとすみません」と断りを入れてから私は化粧室へと向かった。

数分後、席に戻るとすでにサラダとスープが配膳されていた。


「メール送っといたよ。『了解です』だってさ」

「あ、はい。お疲れ様でした」


ひとまずサラダを食し始めると、ほどなくして新たなお客さんが来店して来た。

時間が経過するにつれて徐々に増えていき、メイン料理が運ばれる頃には店内は満席となっていた。
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