夢を忘れた眠り姫
やはりお昼時ともなればそれなりに混雑するようだ。

その見込みがあるからこそマスターは土曜日の営業を続けているのだろう。

ただ、空席待ちができるほどではなかった。

先ほど最後に訪れたカップルが、席が埋まっていると知ると「あ、だったら良いです」と言いながらあっさりと出て行った。

この界隈には他にいくらでも店があるし、入れなかったからといって特別落胆はしないようだ。

長居するつもりの身としては多少なりとも罪悪感が薄れる出来事であった。

そして私達は予定通り、食事をしながらボソボソと話し合いを進め、約1時間後、店を出ることになった。


「あ、しまった」


支払いをかって出てくれたベンさんが、手にした伝票に視線を合わせながら声を発する。

「え?どうかしました?」

「アイツにコーヒー代払わせるの忘れてたぜ。なんで俺が出してやらなくちゃいけないんだよ」


ブツブツと呟きながらレジへと向かうベンさんの姿にクスッとしながら、私も後に続いた。

ベンさんの車で来ていたので、コインパーキングまで歩を進め、中に乗り込み家路を辿る。


「ただいまー」

「無事に帰りました」

マンションに到着し、呼び鈴は押さずに部屋に入ってリビングに直行すると、貴志さんはソファーに腰かけ、ノートパソコンのディスプレイを凝視していた。


「……あっ、お帰りなさい」
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