夢を忘れた眠り姫
「そうなんですよね…。しかも、その問題がいつ決着を迎えるかも分かりませんでしたし。一円でも多くのお金を残しておかないと、と思ったんです」

「でも、取り壊しが決定しなければそのままそこに住み続けるつもりだったんだろ?ストーカー紛いの男とのトラブルの真っ最中だったのに、セキュリティ面での不安はなかったのか?」

「あ、いえ。昨日も言った通り、あちらからわざわざ出向いて来る事はなかったんですよ。いつも私の方が会いに行っていたんです」


そこでふいに、居間のソファーにふんぞり返って座り、上から目線の偉そうな口調で話をするあの男の姿が脳内に再現された。


「だけどある日その関係に亀裂が入り、当然、もう彼の元を訪ねるのはやめました。そしたらしつこく連絡が来るようになって。ひどい時には一日に着信60件とか。それでいい加減うっとうしくなり、ベンさんに間に入ってもらう事にしたんです」

「なるほどね…」


貴志さんはしばし思案してから続けた。


「何かその相手、かなりインドアな生活を送っているように感じられるんだけど、もしかして相当年配だったりする?」

「え?えっと…。それはちょっと…」

「あ、ごめん。また余計な詮索しちまった。もちろん答えなくて良いよ」


自分の発言を慌てて撤回する貴志さんに頷いてみせてから、私は話を進めた。
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