夢を忘れた眠り姫
部屋に入って数分後、案の定、隣室から物音がし、ドアの開閉音と足音によって貴志さんがリビングまで移動したのが分かった。


『やっぱり、私とは顔を合わせたくないんだ…』


改めて彼の意志を認識し、一瞬泣き出しそうになったけれど、呑気に落ち込んでいられるような立場ではない、と自分自身を叱咤して涙を引っ込める。

彼が食事をしている間にさっさとお風呂に入って来なければ。

私と顔を合わせたくない貴志さんの為に、時間差でやるべき事をどんどんこなして行かなければ。

そういった使命感のもと、その日の夜、そして翌日、翌々日と、アクロバット飛行ですれ違う機体のごとく、鉢合わせしないようにかち合わないように、細心の注意を払いながら過ごした。

といっても日曜日と祝日であった月曜日、連日貴志さんはお昼前から夜にかけてどこかに出掛けてしまっていたので、その間はかくれんぼをする必要はなかったけど。

なので私は月曜日、スーパーに赴き食材を調達して来ると、恒例のおかず作りに没頭したのだった。

もちろん、その時点では貴志さんが何時に帰って来るのかは分からなかったけれど、私を避けているのだから可能な限り外で過ごすつもりだろうと思ったし、外出時間は前日と同じくらいだろうと予想した。

そしてもし私がキッチンを占領している時に帰宅しても、彼の分のおかずもこしらえているのだからそこは許してもらえるかな、と考えたのだ。
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