夢を忘れた眠り姫
案の定顔を合わせる事はなく調理を終え、夕飯を済ませてお風呂に入って出て来た頃に貴志さんは帰還した。

その後は再びアクロバット(以下同文)。

しかし、休日ならどうにかそのミッションを遂行できても、仕事の日ともなるとさすがにタイミングをずらすのは難しく。


「あ…」


火曜日の朝、普段よりも遅めにキッチンへと向かった私は、約二日半ぶりに貴志さんと対面する事となった。

水音が聞こえたので予想はしていたけれど、すでに朝食を終えたらしい彼は流しの前で食器を洗っている所だった。


「……おはよう」

「お、おはようございますっ」


彼の方からきちんと目を見て挨拶してくれた事に若干テンションが上がりつつ、急いで言葉を返す。


「今日は俺が先に出るから」


しかしすぐにスッと視線を逸らすと、貴志さんは水を止めて食器を水切りカゴに置き、タオルで手を拭きつつ続けた。


「金曜日に結構仕事を残してきてしまったから。帰りも遅くなると思う」

「え…」

「準備ができたらそのまま出発するから。火の元の確認と戸締まりよろしく」

「あ…はい。分かりました…」


私の返答を最後まで聞かないうちに貴志さんは歩き出し、足早にダイニング、リビングを通過して出て行った。

しばしその場にぼんやりと佇んでしまっていた私は、『いやいや、こんな事をしている場合じゃない』と自分自身を奮い立たせ、動き出す。
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