夢を忘れた眠り姫
しかし、朝食を作り終え、ダイニングテーブルに着こうとした所でギクリとした。

机上には5千円札1枚、千円札4枚、500円玉1枚、100円玉4枚、50円玉1枚、10円玉4枚、5円玉1枚、1円玉5枚が乗っていた。

一緒にメモも添えられていて、そこには『作りおきしてくれたようなので料金をお支払いします。必要な分を取って下さい』と書いてあった。

つまりどんな額でも対応できるようにそういう組み合わせでお金を用意してくれていたという訳だ。

言い換えれば、私とごちゃごちゃと、お金のやり取りをしなくて済むように。

しかも、それを口頭で伝えることさえしたくないという、彼の心情がヒシヒシと伝わって来て、もともと地の底にあった私のテンションはさらに穴を掘ってその中に潜り込んでしまった。

しょんぼりしながら朝食を摂り、のろのろと出かける用意をし、とぼとぼとした足取りで通勤路を辿る。

入社してから初めて、始業時間まで10分を切ったギリギリのタイミングで会社に着き、エレベーターホールでしばし待機したあと到着した箱に急いで乗り込んだ。

と、誰かが小走りでロビーを駆けて来る足音が聞こえたので、扉の『開』ボタンを押して待っていると、「すみません」と言いつつ男性が乗り込んで来た。

その瞬間、相手が落合さんである事を認識し、同時に彼も中にいたのが私であったと気が付く。


「あっ」
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