夢を忘れた眠り姫
「あらそう。ま、それならむしろ好都合だわ。あなたに言いたい事があって来たから」


言葉を繋ぎながら、母親は自動ドアの方にすっと向き直った。


「部屋に上がらせてもらうわ。早くここを開けなさい」


「お断りです」と瞬時に返しそうになったけれど、同時にある考えが頭に浮かび、咄嗟に思い留まった。


「……分かりました」


素直に鍵を解錠して母親、私の順で自動ドアを抜け、その先にあるエレベーターに二人で乗り込む。


「すみません。少々お待ちください」


部屋の前に到着し、母親にそう断りを入れてから彼女をそこに残して中に入り、玄関、廊下、リビングと明かりを点けつつ移動する。

そして暖房のスイッチを入れ、コートを脱いでダイニングの椅子に引っ掛けてからキッチンへと移動し、買ってきた物のうちひとまずケーキだけ冷蔵庫に仕舞った。

他の物は袋に入れたまま食器棚の前に放置し、手を洗って電気ケトルでお湯を沸かした後再び玄関に戻り、上リ口に来客用のスリッパを用意してからドアを開ける。


「お待たせいたしました。どうぞ、お入り下さい」


仏頂面で待機していた母親を促すと、彼女は無言で玄関に足を踏み入れ、白のショートブーツを脱いでスリッパを履くと、さっさと一人で廊下を進んで行った。


私はため息を吐きながらドアを閉めて鍵をかけ、母親の後を追いかける。
< 246 / 277 >

この作品をシェア

pagetop