夢を忘れた眠り姫
リビングのソファーの裏で藤色のコートを脱いでいる彼女を横目で見ながらキッチンへと歩を進めた。

開封してあるお茶菓子の中からお煎餅とチョコを適当にチョイスして小皿に盛りつけ、母親の分だけ緑茶を淹れて、トレイに乗せてからリビングへと運ぶ。

すでにソファーに陣取っていた彼女の前にそれらを置き、そこから見て左側のラグの上に腰を落とした所で改めて質問した。


「それであの、お話というのは…?」


母親はお茶とお菓子には手を着けず、キッ!という感じで私に視線を合わせ、語り始める。


「あなたにもバレているのよね?私が探偵を雇っていたこと」

「え、ええまぁ…」

「その男から契約を破棄する連絡が来たのよ。調査の過程でうっかりあなたと接触してしまい、話の持って行き方を間違えて、あなたに付いている弁護士からお叱りを受けたって。だからもうこの件にはタッチできないって」


あの探偵はそういう風に状況説明したんだ、と思いつつ、同時に私は母親の態度にさすがだな、と感心していた。

普通の神経だったら「探偵を雇ってあなたのことを調べさせていた」なんて事を、こんなに堂々と、しかもキレ気味に告白したりできないだろう。

だけど彼女はできてしまう。

それが貴志理恵子クオリティ。


「そしてそれとは別に、弁護士の方からも連絡が来たわ。今後一切、あなたの身辺を探らないように、余計な詮索はしないようにって」
< 247 / 277 >

この作品をシェア

pagetop