夢を忘れた眠り姫
さっきは言い訳に使わせてもらったけど、それまで赤の他人だった人と比べればある程度は気心が知れているとはいえ、だからといってやはり仕事上の付き合いしかない人物との同居を考えるなんて、普通の感覚だったらありえない。

貴志さんが寡黙で実直で真面目な人柄であるというのは充分に伝わって来ているし、周りの人達も十人中十人が同じ評価を下すだろうけれど、だからといって二人きりになった時にそれを貫いてくれるかどうかは分からない。

それでも、貴志さんなら大丈夫だと思えるのだ。

そこまで他人に深く関わるつもりはさらさらないだろうな、と。

敵は作らないように、だけど親密な関係にはならないように、ギリギリのラインでうまく他者とのコミュニケーションを取っているように見受けられるから。

ズバリ私自身がそうだから分かるのだ。

同じ思考回路の人は本能的に。

だからただの職場の同僚に手を出すなんて、後々この上なく面倒くさい事態になりそうなアクションを起こす訳がないよな、と。


「引っ越すとなると住所変更の届けを総務課に出すことになるけど、俺達が同じ部屋に住んでるってこと、担当者に気付かれてしまうんじゃないのかな」


しかし貴志さんは私を諦めさせるべく、奮闘を続けていた。


「だからってそれを周りにペラペラ言いふらしたりはしないですよ。バリバリ個人情報ですもん。そんなことしたら自分で自分の首を絞めますよ」
< 25 / 277 >

この作品をシェア

pagetop