夢を忘れた眠り姫
「いや…でも…『この二人、そういう関係なんだ』って、心の中では密かに誤解され続ける訳だし…」


トーンダウンしつつも何とか応戦し続けていた貴志さんは、そこで突然ハッとした表情になった。


「あ」

「え?」

「そっか、その手があったか…」


そして何やら独り言を呟いた後、一旦外していた視線を再び私に戻し、彼は力強く言葉を発した。


「分かった。条件によっては一緒に住んでも良いよ」

「へ!?」


その突然の気の変わりように、心底驚きつつ問いかける。


「い、良いんですか?」

「ああ」


コックリと頷き、貴志さんは続けた。


「しかし肝心のその『条件』を聞いたら、むしろ君の方が同居を辞退するかもしれないけどね」

「……一体どういう内容なんでしょうか?」

「いや、今、ここではちょっと…。昼休みもそろそろ終わってしまうし」

「あ、そうですね」


その言葉に慌てて左手を上げ腕時計を確認すると、午後の始業時間5分前までに迫っていた。


「すみません。歯磨きに行く所だったのに…」

「いや、マウスウォッシュで手早く済ませるから。それより永井さん、今日は定時で上がれそう?」

「え?えっと…。そうですね。特別急ぎの仕事はないです」

「その後なにか予定はある?」

「いえ、何も」


明日からの物件探しに備えて早く帰宅し早く就寝するつもりでいたのだ。
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