夢を忘れた眠り姫
貴志さんはため息を吐きながら、再び母親に視線を戻すと冷たい声音で言い捨てた。


「つくづく情けない女だな。俺のいない間にコソコソと彼女に接触して来るなんて」

「だって、私はあなたの為を思って…」

「とにかくさっさと帰れ」

「この女は所詮お金目当てよ!」


母親はもどかしそうな声で叫んだ。


「条件の良い男を捕まえる為に、本来なら分不相応なあの会社に執念で入ったのよ、きっと。そして押しが弱そうだけれど堅実で将来そこそこ良いポジションまで登り詰めるであろう真守に目を着け、まんまとたらしこむ事に成功した。しかも、隅谷家と繋がりがあることまで分かったんだもの。『こんな上玉絶対に逃してなるものか』と思ってるわよ!お母さん、怖くて仕方がないわ。目を覚ましなさい、真守。こんな女とはさっさと別れなさい!」

「おいあんた、いい加減に…」「そりゃ、お金はあった方がいいに決まってるじゃないですか」


貴志さんの言葉に割り込むようにして私は母親に反論した。


「お金を稼ぐことに対して投げやりで、貯えを維持する事に無頓着な人のことなんか尊敬できません」

「ほ、ほーら!やっぱり本音が出たじゃない!」

「『愛があればお金なんかいらない』なんて、そんなあまっちょろいセリフが吐けるのは、お金に関して危機感を抱いた事のない人だけだと思います」
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