夢を忘れた眠り姫
そこで私は貴志さんの横顔を見た。


「だから私には、真守さんじゃなくちゃダメなんです」


その瞬間、彼が目を見開きながらこちらを凝視して来たけれど、私はすぐにまた母親へと視線を戻す。


「金銭面はもちろん、様々な部分で価値観がピッタリと合います。生涯のパートナーは真守さん以外には考えられない。だからどうか、見守っていてくれませんか?」


そして彼女に懇願する。

私の為ではなく、この世に誕生した瞬間から囚われ続けている貴志さんの為に。


「私達の行く末を」


母親の呪縛から何とか逃れようと、長い間必死にもがき続けて来た彼の為に。


「あなたの望む通りの人生を歩ませようとするのではなく、真守さんが自分で決めた人生をしっかりと歩んで行く姿を、どうか静かに温かく、見守っていてはくれませんか?」


母親からの返答はなかった。

目を泳がせ、口を半開きにし、何か言葉を紡ごうとはしているけれど、実際には出力されそうにない。


「……とにかく、もう帰ってくれ」


私の弁論に黙って耳を傾けていた貴志さんは、そこで再び口を開いた。


「彼女の弁護士から、勝手に接触を図らないように連絡が行っている筈だ。それなのにこんな堂々と押し掛けて来るなんて。今度は警告だけじゃ済まなくなるぞ」


その言葉に、母親は初めて自分の立場を認識したようにギクリとした表情になると、次いでぎこちなく動き始めた。
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