夢を忘れた眠り姫
「それじゃあ、帰りにちょっと時間もらっても良いかな?」

「え?」

「その条件について話をするから」

「…分かりました」

「えっと、じゃあ…会社から駅とは反対方向に歩いて15分くらいの所に『アルルカン』っていう喫茶店があるんだけど、知ってる?」

「アルルカン…いえ、知りません」

「そっか。メイン通りからはちょっと外れてしまうんだけど…。まぁ、歩道沿いに歩いて行けばそのうち店の看板が目につくから。その案内に従って進んでくれれば大丈夫だと思う。仕事終わり、そこで待ち合わせって事でいい?」

「了解しました」


話がまとまった所で、すぐさま解散する事にした。

午後の始業時間が迫っているのだからさっさと動き出さないといけないし。

一応他の人の目を考えて、まず貴志さんに先に立ち去ってもらい、一分後くらいに私もその場を後にする。

庶務課に戻って席に着き、少し間をおいて同じくデスクに戻った貴志さんを視界の端に納めながら午後の業務に突入した。


「お疲れ様でした」


無事定時を迎え、部署内の人にそう挨拶しながら出入口へと歩を進める。

さりげなく貴志さんを確認すると、席に腰かけ机上の整理整頓をしている所だった。

もちろん、彼を待ちぶせして一緒に喫茶店に向かったりはしない。

貴志さんはあえて口には出さなかったけど、会社の人にはバレないように落ち合うのが前提なのだろうし、私も同じ考えだから。
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