夢を忘れた眠り姫
ちょっと驚いたようにそう言ったあと、しかしすぐに合点がいった表情で貴志さんは続けた。


「あ、でもそうか。名刺に載ってる住所から判断するとそんなもんだよな」

「それと……例のトラブルも、無事に解決したみたいなんです」

「えっ。本当に?」

「はい」

「良かったじゃないか」


貴志さんはとびっきりの笑顔を浮かべた。


「おめでとう。これで心配事はすべて片付いたな」

「ありがとうございます。それで、あの……」

「ん?」

「私が今まで抱えていたトラブルの全容、お話したいのですが」

「え?」


若干目を見開き、そのまま固まってしまった彼に、私はおずおずと問い掛けた。


「やっぱりご迷惑でしょうか?こんな時間に…」

「いや、そんなことはないよ。後は風呂に入って寝るだけだし。ただ、俺が聞いてしまって良いのかな、と思って」

「いえ。ぜひとも聞いていただきたいんです。というか、吐き出したくて仕方ない気分なんです」


他ならぬ貴志さんに、私の歴史の一部を。

しばし思案したあと、彼は意を決したように頷きながら言葉を発した。


「分かった。君がそう言うなら、聞かせてもらおうかな」

「はい」


テレビを消し、姿勢を正してソファーに座り直す彼を視界に納めながら、私はその左手側に移動し、ラグの上に正座した。


「まずは私の父の生い立ちから…。彼の人生はとても波乱に満ちたものでした」
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