夢を忘れた眠り姫
ロッカールームで身支度を整え会社を出て、一人でさっさか指定の喫茶店へと向かった。

電車通勤の私にとって、そのエリアはあまり馴染みのない場所だった。

会社から15分ということは、駅からだと20分ちょっと。

会社帰りにわざわざそっち方面まで足を伸ばす機会がなかったのだ。

新入社員歓迎会は駅寄りの居酒屋だったし、それ以外の同期や先輩達からの飲み会、食事会の誘いにはめったに応じないので、8ヶ月も勤めている割には私は会社近辺の地理にはすこぶるうとかった。

また、いつもお昼をご一緒させていただいている方達は「せっかく社内に安くておいしい食堂があるんだからわざわざ外に行く必要はないよね」という考えの方ばかりで、私もバリバリその意見に同意なので、ランチタイムに外食したこともない。

ましてや会社から徒歩15分もかかる場所などとてもじゃないけど利用できない。

往復30分は必要になる訳だし、一時間しかない休憩時にそんな忙しなくて疲れる冒険はしたくない。

だからこれからも私は、駅から微妙に遠いその界隈には自ら進んで足を運ぶ事はないだろうし、土地勘が鍛えられる事もないだろう。

そんな事を考えながら足早に歩いているうちに、貴志さんから教えられていた『アルルカン』の道案内をする看板前までたどり着いていた。
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