夢を忘れた眠り姫
「小説家…?」
「その家には短大卒業後、都内の書店に勤務していた一人娘、つまり私の母がいました。ローテーションで平日休みだったので、小説家を訪ねて来た父と偶然鉢合わせしたのです。これは後で分かったことですが、お互いに一目惚れだったそうです。父がその家へ巡回する日と母の休みがかち合う事はそれ以降ほとんどなく、二人がその家で会ったのはそれ一度きりだったのですが、母は父が置いて行った名刺の電話番号をこっそりメモし『現金出納帳の勘定科目について、父の代わりに確認したい事が…』等と偽って連絡を取り、見事、プライベートの番号をゲットしたそうです。その頃ケータイはまだ一般化されていなかったので、もちろん固定電話です」
「ずいぶん積極的なお母さんだな」
「自分でも不思議なくらい必死だったそうです。どうにかしてあの人とお近づきになりたいと」
「その願いは無事かなえられた訳だ」
「はい。最初は友人からスタートし、徐々に、ゆっくりと愛を育んでいき、一年後には結婚を前提としたお付き合いに発展していました。そして母はその事実を父親である小説家に打ち明けました。しかし、彼は猛反対。こっそり父の身辺を調べ『あの男は親も親戚もいないそうじゃないか。どこの馬の骨か分からんぞ』と言ったそうです」
だけどそんなのはただの言いがかりだ。
何でもいいからただいちゃもんをつけたかっただけなのだ。
「その家には短大卒業後、都内の書店に勤務していた一人娘、つまり私の母がいました。ローテーションで平日休みだったので、小説家を訪ねて来た父と偶然鉢合わせしたのです。これは後で分かったことですが、お互いに一目惚れだったそうです。父がその家へ巡回する日と母の休みがかち合う事はそれ以降ほとんどなく、二人がその家で会ったのはそれ一度きりだったのですが、母は父が置いて行った名刺の電話番号をこっそりメモし『現金出納帳の勘定科目について、父の代わりに確認したい事が…』等と偽って連絡を取り、見事、プライベートの番号をゲットしたそうです。その頃ケータイはまだ一般化されていなかったので、もちろん固定電話です」
「ずいぶん積極的なお母さんだな」
「自分でも不思議なくらい必死だったそうです。どうにかしてあの人とお近づきになりたいと」
「その願いは無事かなえられた訳だ」
「はい。最初は友人からスタートし、徐々に、ゆっくりと愛を育んでいき、一年後には結婚を前提としたお付き合いに発展していました。そして母はその事実を父親である小説家に打ち明けました。しかし、彼は猛反対。こっそり父の身辺を調べ『あの男は親も親戚もいないそうじゃないか。どこの馬の骨か分からんぞ』と言ったそうです」
だけどそんなのはただの言いがかりだ。
何でもいいからただいちゃもんをつけたかっただけなのだ。