夢を忘れた眠り姫
「そうだったのか…」


貴志さんは眼鏡を押し上げながら感慨深げに呟いた。


「彼の孫娘が、君だったのか…」

「でももう赤の他人も同然ですけどね」


ちょっぴり鼻息荒くそう言うと、貴志さんは改めて私をじっと見つめて来る。

思わずドキリとしていると、彼は静かに言葉を発した。


「…一人でよく頑張ったな」


そして穏やかに微笑んだ。


「大変だっただろう。お疲れ様」


その瞬間、私の胸の鼓動は最大級に高鳴った。

だけどそれを悟られないように、私は話の締め括りに入る。


「……そういった背景があり、一時小説を書くのが嫌になりかけたんです。祖父が小説家である事、その正体は中学生の時に初めて聞かされて、『ああ、だから私も昔から物語を考えるのが好きだったのかな』と、その時は若干誇らしく思ってしまったのですが、彼の本性を知ってしまった後は、ただただその共通項はおぞましいだけだった。だけどすぐにある事実に気が付きました。私が小説を書くようになったのが彼からの遺伝なら、その才能も受け継いでいるハズだけど、そんな片鱗は微塵も感じられないから、やっぱり彼は全く関係ないんだなって」


貴志さんは無言のまま耳を傾けている。


「私は私の意志で、ただ小説を書きたいから書き始めたんだって、改めて自覚したんです」
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