夢を忘れた眠り姫
「だったら書けば良い」


貴志さんは力強く頷きながら言葉を発した。


「ただ情熱の赴くままに、『今、これを書かずに何を書く』と自分の心が奮い立つような、渾身の物語を」


その姿を視界に納めた私は、思わず息を呑んだ。

貴志さんがあまりにも凛々しくて気高くて、そして美しかったから。


「そういった思いが込められていることが伝われば、必ずその作品を愛してくれる人は現れる。それこそが、物書き冥利に尽きることだろ?」


「……はい」


ほんのり瞳が潤んでいることを自覚しながら私は答え、そして続けた。


「そうしたら貴志さん、その物語を、一番最初に読んでくれますか?」

「……俺が読んでも良いのか」

「もちろんです」


貴志さんにこそ、読んでもらいたいんです。


「分かった。楽しみにしてるよ」


その言葉に、胸がじんわりと熱くなった。

と同時に、唐突に、ある感覚に襲われる。


「あ……」

「え?」

「何だか急激に、眠くなって来ました……」


言ってる途中で思わずあくびが出そうになり、歯をくいしばって必死に堪える。


「しかも、すこぶる良い感じの睡魔です」


体がふわふわして頭の芯がぼんやりしていて、だけど何故か気持ちだけが昂っている。
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