夢を忘れた眠り姫
「しかもネタだのストーリーだの、フィクションの世界と混同しているみたいだけど、これはまごうことなき現実だから」

「す、すみません…」

「でも、あえてそれに反論する形で言い訳させてもらうと」

「え?」


そこで貴志さんは眼鏡を押し上げ、姿勢を正しつつ言葉を発した。


「まず、恋人のふりをしてもらいたい理由はお察しの通り見合い話が浮上していてそれを断るためなんだ。だけどとりあえず今回だけ乗り切れればもうそれで良い。だからその場しのぎの策だとして何ら問題はない。ここまではOK?」

「…はい」

「また、俺はわざわざ恋人の振りをしてくれる女性を探し出した訳ではない。君からルームシェアの提案をされ、その話し合いの過程で『異性と同居する』という事実を利用できると思い付いただけのことだ。断られたら潔く諦めるつもりだったし。だから極めて自然の流れであり、君の言う『強引で必然性も説得力もない浅はかで短絡的で社会人としてあるまじき思考回路』ではないと思うけど?」

「……なるほど」

「それに、俺のこととは切り離してそういう作品について話をさせてもらうと、ありきたりのネタを使っている上に展開の仕方が強引過ぎてありえないと感じてしまうというのは、ただ単にその作者の力不足だと思うけど」


貴志さんはクールに言葉を繋ぐ。
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