夢を忘れた眠り姫
「どれだけありふれていようがありきたりだろうが使い古されてボロボロになっていようが、あえてそのネタに挑み、斬新でバックグラウンドのしっかりした、魅力的なストーリーに仕上げられる人も中にはいる筈だ」


心にズシンと響いたのと同時に、私はとても驚いていた。

まさか彼がこんなに理路整然と意見し、相手をやり込めるだなんて。

今までそんな姿見た事がなかったから。

貴志さんこそ、普段とはキャラクターが違っている。

彼の中でも何かのスイッチが入ったのだろうか。


「……まぁ、俺の弁論はここまでにして…」


すると貴志さん自身、そんな自分の変化に気付いたのか、ちょっと気まずそうにコホンと咳払いをしてから話を転換した。


「とにかくそういう訳なんだ。どうだろう。引き受けてもらえるかな?」

「えっと…。その演技はいつまで続ければ良いのでしょうか?」

「四六時中、長きに渡って、って事ではないんだ。要所要所でそれらしく振る舞ってもらえれば。まず、母親と会って恋人宣言をしてもらい、あとはたとえば母親が抜き打ちでマンションを訪ねて来たりした場合に同棲の証拠を見せるくらいかな。そして、その件は数ヶ月の間にはケリがつくと思う」

「そうですか」


それくらいなら大した負担ではないよね…。

しばし思案した後、私は思い切って彼に打ち明ける事にした。

やはりその事実を隠して同居する訳にはいかないだろうし。
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