夢を忘れた眠り姫
ただ、本当に愛する人をトラブルには巻き込みたくないとか、また、その方とルームシェアをしていないのは勤務先が離れているから、とかいう理由があるかもしれなかったので、念の為確認しておきたかったのだ。

本物さんを差し置いて彼の親御さんとの対面を果たすというのは、どんな理由があろうとも後ろめたいものだ。


「じゃ、諸々の不安要素はなくなったし、これで心おきなく恋人のふりができそうです」

「……という事は、引き受けてくれるってこと?」

「はい」

「そっか。良かった」

「いやいや、私の方こそ『良かった』ですよー。思いの外すんなりと次の住み処を確保する事ができたんですから」

「そういえば、何でそんなに必死に転居先を探しているの?」

「あ、そういやきちんと説明してませんでしたよね。実は…」


そこで私はようやくかくかくしかじかと、事の顛末を説明したのだった。


「なるほどね」

「だからホント貴志さんは救世主なんですよ。あ。さらに言えば、あのタイミングでその話を引き出してくれた青柳さんにも感謝ですね」


あとは、もう一つの最大級にやっかいな問題が片付くのを待つばかり。


「そんな訳でお互いに持ちつ持たれつ、仲良く利用し合いましょう」

「ああ」


苦笑しながらそう応じたあと、貴志さんは表情と口調を改め、言葉を発した。


「ひとまず今日のところはこれでお開きにしようか」

「そうですね」
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