夢を忘れた眠り姫
やっぱり気軽に自由に移動できる布団の方が私にとっては使い勝手が良いし、このタイミングでの余計な出費は極力押さえたいから。

いつかはベッドの方に魅力を感じる時が来るのかもしれないけど、ひとまずそれを新調するのは今じゃない。

するとそこで突然左後方から『ヴィーン』という振動音が伝わって来た。

もう何度も耳にしているものなので、その音の正体はすぐに察知できる。

箸を置き、上体を捻って左手を伸ばし、洋服かけの前に放置してある通勤用のバッグを引き寄せた。

外ポケットに入れっぱなしにしてあったケータイを取り出し、ディスプレイを確認すると、案の定貴志さんからのメールが届いていたので、早速中身を確認する。

『今日はどうも』的な挨拶の後、本題に突入していた。


「あ、相棒さんは明日マンションを出て行くんだ」


呟きつつ長めのメールを読み進める。

その方は某アパレル会社にお勤めで、台湾支社で欠員が出たので急遽転勤を命じられたらしい。

といっても、元々自分で希望を出していて、いつそうなっても良いように常日頃から心の準備をしていたので、あまり戸惑う事はなかったそうだ。

もう日本での引き継ぎ業務は完了しているので、会社が手配してくれた現地のアパートへと引っ越し、来月仕事に取りかかる頃にはある程度土地に馴染んでいるようにしておくらしい。
< 44 / 277 >

この作品をシェア

pagetop