夢を忘れた眠り姫
箱のフタを開けながら貴志さんの問いかけに答える。


「チェストやら洋服かけやらクローゼットの中の衣装ケースやら。後はそれぞれの場所に収納していくだけですから。ゆっくりのんびりやりますよ」


それでも今日中にはだいたい片付くだろう。

常日頃から余計な物は買わないようにしていたのは正解だった。


……大学一年のあの時、家中の荷物をまとめる際にかなり苦労したから、そう決めたんだよね。


「そっか。じゃあ俺は先に昼メシにさせてもらおうかな」

「はい。どうぞ」

「永井さんはどうするの?」

「朝のうちにコンビニでサンドイッチと飲み物を買っておいたんです。途中それをつまみますので、私の事はお気になさらず」


事前に『食事はお互いに好きな時に済ませる。もしキッチンを使うタイミングが被るようだったら都度話し合う』と決めてあった。


「分かった。それじゃあまた後で」

「あ」


そこで私は唐突にある事を思い出し、立ち去ろうとしていた彼を慌てて呼び止めた。


「すみません貴志さん。やっぱり一つだけお願いして良いですか?」

「ん?」

「これ、中身を出して、あのチェストの上に乗せて欲しいんです」


言いながら私は自分の左側に置いてあったダンボールを指差した。


「重さはそうでもないんですけど取っ掛かりがなくて。無理して落としたら嫌だし」

「分かった。じゃ、ちょっと失礼して…」
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