夢を忘れた眠り姫
自分を見失っていた私達は同時にハッと我に返り、姿勢を正しながら、カップがそれぞれの席の前に置かれるのを無言で見つめた。


「……どうしてそんな酷い言い方をされなくちゃいけないの…」


さすが一流ホテル内の喫茶店に勤めているだけあって、最後までポーカーフェイスを貫きつつ立ち去った店員さんを見送ったあと、母親が真っ先に口を開く。


「女手一つで、苦労してあなたを育て上げたっていうのに…」


言葉の途中で声を詰まらせ、ハンドバッグからハンカチを取り出すと、浮き出して来ていた涙を拭った。

しかし貴志さんの横顔を確認すると、そんな彼女をシラケた表情で見つめている。


「あなたの親御さんは、今回の件について、何て言っているの?」


貴志さんからの返答は諦めたようで、再び彼女は私に矛先を向けて来た。


「まさか内緒で同棲している訳ではないんでしょ?」

「あ、えっと…」


貴志さんは彼女にこの情報はまだ開示していない(その機会がなかった)んだな、と思いつつ返答する。


「私の両親はもうこの世にはいません」

「え?」

「私が大学生の時に他界しましたから」

「んまっ」


母親は目を見開き、ハンカチを口に当てて声を発した。


「という事は、あなたには何の後ろ楯もないという事?まぁ~」


とてつもなく芝居がかったリアクションであった。
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