夢を忘れた眠り姫
相変わらず母親は、威風堂々とした口調で反論した。


「あなたはちゃんと認知されているんですからね。それに、あの人はこっちの家にはたまにしか来られなかったでしょう?家に男手がないっていうのは本当に大変なことなのよ。せめてお金くらいはそれなりに出してもらわないと」

「世間の養育費の相場はせいぜい月々数万円だぞ。あんたは新入社員の初任給くらいはぶんどっていただろう。そこにパートの給料を合わせれば、親子二人余裕で生活できた。さも、汗水たらして自分一人の力で、立派に子供を育て上げたシングルマザーであるかのように語るなって言ってるんだ」

「ちょっと待ちなさい。今日はそんな話をする為にこの場を設けた訳じゃないのよ」


母親は論点がどんどんズレて行っている事に気付いたようで、話の軌道修正を行った。


「とにかく、立派な家系の血を引いているにも関わらず、ずっとないがしろにされてきたあなたと、日陰の身に甘んじてきた私に、やっと訪れたチャンスなのよ、これは。みすみす逃してどうするの!?」

「だから、俺にそういう人生を歩ませたのはあんただろ?」


覇気がなかった貴志さんの口調はだんだんと変化して行った。


「日陰の身?当然だろうが。既婚者に寄生して、正妻とその子供を悩ませて苦しめて、不幸のどん底に突き落としておきながら、何をいけしゃあしゃあと悲劇の主人公ぶってるんだ」
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