夢を忘れた眠り姫
紡ぐ言葉はどんどん強く、荒くなって行く。


「俺はもうあの男に養育してもらう必要はない。自分の力で生きて行ける。だからこれ以上、あの家には関わらず、慎ましく粛々とこれからの人生をやり過ごしていくつもりだ」

「何故あなたがそこまで卑屈にならなくちゃいけないのよ」


母親はとてももどかしそうに言い募った。


「向こうは色々な面で優遇されているんだから。あの人の後継者はあちらの家の息子だし、同じお墓に入れてもらえるのもあちらの家族だけ。もし、あの人にもしものことがあった場合、正当な範囲内の額の現金のみを受け取り、それ以外の物を要求したりしないように、書類にもサインさせられたでしょう?そうやって分かりやすくあからさまに差を付けられて、そして私達は大人しくそれに従っているんだから、これ以上の責めを受ける謂れはないのよ」

「本来ならあっちの息子がすべてを託される筈だったんだ。そんな条件、優遇でも何でもない」


貴志さんは厳しい口調で反論した。


「むしろ今までが厚かまし過ぎたんだ。これ以上生き恥を晒すな。『正当な範囲内』の取り分なんてものはいらない。あの男が死んだら、俺は遺産は放棄する」

「なっ…。だから、あなただってれっきとしたあの人の息子なのに、どうしてそんなに弱腰なの。そもそも、この話はあの人が持ってきてくれたものなんだから。あなたのこともちゃんと考えてくれているのよ?」
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