夢を忘れた眠り姫
「行こう、夢実」

「……あ、はい」


きちんと目を見て名前を呼ばれたというのに、一瞬それが自分のことだとは認識できなかった。

いや、貴志さんに「ゆめみ」呼びをされたのは初めてである上に不意打ちだったもんで…。

まぁ、恋人という設定なんだからそうするのが自然なんだけど。

私だってさっき貴志さんのこと「まもるさん」て呼んだもんね。

しかし、やっぱり人間って、過去の経験値を頼りに生きてるんだな~とつくづく痛感する。

ただの職場の同僚である貴志さんに、ファーストネームで呼ばれるだなんてつい最近まで夢にも思っていなかったから、脳がとっさに反応できなかったのだろう。


「待ちなさい真守!」


その促しに従って私が立ち上がったのと同時に、母親もそう言いながら腰を上げた。

しかしそれを無視し、さっさと荷物を手に取り貴志さんが歩き出そうとしたその時。


「あれ?」


後方から、とても驚いたような女性の声が響いて来た。


「ちょっと、貴志さんじゃない?」

「やだ、ぐうぜ~ん!」


その時点で予感はあったけれど、条件反射的に振り向くと、案の定、通路の向こうから案内係の店員と共に見慣れた女性が二人、こちらに歩を進めて来る所だった。


「え?うそっ。永井さんもいるじゃん!」

「んん!?どーいうこと?」


声の正体を確信した瞬間そう叫ばれ、内心『うっ』と怯む。
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