夢を忘れた眠り姫
その二人は、私達と同じ課の方で、なおかついつもお昼をご一緒させていただいているメンバーのうちの近藤さんと山瀬さんだった。


「えー。なんでなんで?」

「どうして二人がこんなところにいるわけ?」

「あ、もしかしてあなた達!」

「うそっ。まさか、付き合ってるとか?」

「え、えーっと、その…」


私達のテーブル前で足を止め、興奮気味に繰り出した彼女達の問いかけに、私は思わずテンパった。

すこぶる面倒なことになってしまった…。

私と貴志さんがルームシェアリング、そして『偽りの婚約者作戦』を遂行していることは当然、職場の人達には秘密である。

色々な憶測が飛び交ってしまい、それ以降の仕事がやりづらくなることこの上ないと思ったから。

だから違う場所で遭遇してしまったのなら速攻で誤魔化したり否定したりするのだけれど、しかし、母親の目の前でそんな行動を取る訳にはいかない。

貴志さんのことなどよく知らず、とてつもなくつたない、綱渡りの演技であっただろうけれど、それでも何とか私が彼の恋人であると信じこませることができたのに、そこに至るまでの緊張感や後ろめたさや、とにかく諸々の苦労が一瞬にして水の泡になってしまう。

かといって先輩方にきっぱりと「恋人です」と宣言するのも大いに躊躇われて…。

よりにもよって一番やっかいな人達に見つかってしまった。


「はい」
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