夢を忘れた眠り姫
マンションにたどり着き、コートと荷物を自分の部屋に置いて、何となくそのままリビングへと向かうと、貴志さんがソファーに腰掛け、目の前の空間をぼんやりと眺めていた。


「あの…」


彼と密着して座るのもなんだったので、私はダイニングまで移動し、テーブル前の椅子に着席しつつ言葉を発する。


「詮索はしない約束でしたけど、もうちょっとだけ、詳しい説明をしていただいてもよろしいでしょうか?」

「え?」

「貴志さんに来たお見合い話について。何だか色々と気になる点が出てきてしまって…」

「ああ…」


彼はネクタイを弛めながら気だるげに返答した。


「そうだよな。思わせぶりなワードがてんこ盛りだったし、消化不良にも程があるよな」

「あ、でも、無理にとは…」

「いや。俺の方が、何となく吐き出しておきたい気分だから」


そして小さく短く『ふ、』とため息を漏らしてから語り始める。


「だいたい大まかには察知できたかと思うけど…。あの場で話が出た通り、母親はある人物の愛人で、俺はその間に生まれた子どもなんだ」

「…はい」

「相手は誰だと思う?」

「え?いや、それは…」


エスパーじゃあるまいし、いくらなんでも今の段階で分かる訳がない。

かなりの大物であるのは間違いなさそうだけど。


「隅谷書房の、現代表取締役社長だ」

「え!?」


私は思わず素っ頓狂な声を発してしまった。
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