夢を忘れた眠り姫
「す、すみたに書房!?」

「ああ」

「日本の文学界を牽引する、出版業界では老舗の最大手、あの天下の隅谷書房の社長さん!?」

「……詳しいんだな」

「い、いや、だって、超有名企業ですし」


当該出版社は書籍の出版、販売はもちろんのこと、映画の制作なんかも手掛けていて、あちこちのメディアで頻繁に会社名を見聞きする機会が多く、そういった分野に興味のない人でも自然とその存在を認識していたりする。

まぁ、私の場合は興味がアリアリなんだけど。


「といっても、母親と出会った頃は奴はまだ修行期間中で、社長どころか役職も与えられていなかったらしいけどな」


驚愕している私に貴志さんは解説を続けた。


「初代の社長が自分の息子を入社させる際、『現場の苦労を知らずして人の上に立つべきではない』という考えの元、他の新人と同じように平からスタートさせたらしい。そのシステムが代々受け継がれているようだ」

「あ。そのエピソード、前にテレビで見たことがあります」


毎週一社ずつ企業をピックアップし、丁寧に取材を行ってそのVTRを流すという、巷で人気のテレビ番組があり、そこで隅谷書房が取り上げられていたのだ。

今貴志さんが言ったような内容がその時に放送されていて『つまり隅谷書房の歴代社長は皆苦労知らずのお坊ちゃんという訳ではない』なんていうナレーションが入っていたっけ。
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