夢を忘れた眠り姫
特に現社長は「小説」を読む力がずば抜けていて、相手が大御所でも歯に衣着せぬ批評をし、何度でも書き直しをさせたりそれでも改善されなければ平気でボツにしたりして、鬼の編集と呼ばれていたようだ。

そして周りも納得のうちに順調に出世していき、40代前半で社長の座を引き継いだらしい。

といっても、それでもやっぱり世間一般のサラリーマンからしたらありえないスピード出世だけど。

そこは「創業者の直系の親族なのだから仕方がない」と割りきるしかないだろう。

テレビを通して見た社長は当時で53才ということだったけれど、長身でスラッとしていてとてもその年齢には見えないくらいに若々しかった。

そして物腰は柔らかいけれどふとした瞬間の眼光の鋭さが印象的で、「如才なく、やり手で切れ者のビジネスマン」といった感じの人だった。

あの人が貴志さんの父親だったのか…。

ついさっきまではもちろん結びつけて考えていなかったけれど、その事実を知った今、脳内で二人を見比べてみると、確かにフォルムも雰囲気もとてもよく似ている。

とにもかくにも世間的認知度がすこぶる高い会社だけれど、私は隅谷書房に対しては個人的に大いなる思い入れがあった。

間違いなく、私の人生のターニングポイントを作ってくれた相手だから。

コテンパンに叩きのめされて最大級にへこみはしたけれど、だからこそ沸々と闘志が沸き起こって来たというか…。
< 99 / 277 >

この作品をシェア

pagetop