化学恋愛
8ℓ
目を輝かせて飴を
舐める少女を前に
俺は悩んでいた。

佐伯さん?
莉緒さん?
莉緒ちゃん?
莉緒っち?

なんて呼べばいいんだ。
俺は結局決められなくて
とりあえず〝お前〟と
呼ぶことにした。

「お前は俺の名前
知ってんのか?」

こいつが俺の名前を
知らなかったら、
俺が名前を聞いたことも
変に思われないだ___

「しいな」

少女が言った。
知ってんのかよ。
俺は呼び捨てにされ、
起こった反面、
知られていることが少し
嬉しく思った。

「で、俺はお前を
何て呼べばいいんだ?」

俺が聞くと彼女は相変わらず
目を輝かせたまま

「何でもいいのです。」

と答えた。
目の輝きは治らないのか?

「じゃ、佐伯さんね。」

彼女はコクンと頷いた。

今は苗字で我慢しよう。

…いや、ずっとだよ!?
変わることなんてないからな?


時間を忘れて会話していた
俺たちは予鈴とともに
実験室を出て
教室に戻ることになった。
先生は気持ちよさそうに
寝ていたので
そのまま寝かせてあげた。

俺は名前を知れたことが
すごく嬉しくて
気がつくと廊下の
真ん中をスキップ
していた。

恥ずかしい。

授業中、少し前の席の
松木から紙が投げられた。
そこには

今朝の女の子
好きなひといるからな☆

と書かれていた。
授業中に何書いてんだっっ
というかそんな事は
分かっている。
そもそも好きじゃないし。

気づいていた。
でも気づきたくないから
心に嘘をつき、
自分に言い聞かせていた。
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