ヘタレな野獣
雨宮君は静かに語りかけながら、墓前にしゃがみ込んだ。



私も彼に並んでしゃがみ込む。


「不本意かも知んないけど、俺、やっと冬子さんを手に入れたぞ、悔しいだろ?
けど、そこからじゃ手も足も出ないよな」




顔を上げて隣を見る。


フッと、軽い笑みを浮かべて、膝に置いた花束に添えていた私の手を掴んだ。


促されるように私はそれを墓前に供えた。



そして両手を合わせた。


正君、気付いてあげられなくて、本当にごめんね?

心の中でそう正君に詫びた。





そうだ、報告があるんだ。

私、雨宮君に恋、しちゃった。正君の親友だった雨宮君に・・・


ねぇ、正君、私、前に進んでも、いいかな?
幸せになっても、いいかな?・・・

雨宮君はまだ手を合わせていた。


どんな事、話してるんだろうか・・・



私には伺い知る事は出来ない。




「・・子さん、冬子さん」

はっ・・・

「そろそろ、行きますか」


立ち上がる雨宮君と共に私も立ち上がろうとしたが、ヒールの足元がぐらついて、上手く立ち上がれず、彼にしがみついてしまった。


「おっと・・・」


よろめいた私をそっと抱き締めてくれた雨宮君。


「あっ、ありがとう・・・」

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