ヘタレな野獣
あれから一年があっという間に過ぎた。





私達は、時に大きな口をあけて笑ったり、時に喧嘩したり怒鳴り合ったり、正君を懐かしんでみたり・・・



そんなありきたりな事を積み重ねて今日まで過ごしてきた。




明日私は、田崎冬子から雨宮冬子に名を変える。






去年のあの日、正君のお父さんが背中を押してくれなかったら、きっと私達に同じ“明日”は来なかったと思う。



ありがとうお父さん、ありがとう正君・・・



未だ丁寧語が抜けない雨宮君ではあるけど、それは私も同じ事。


でも、私達は自分達のペースで、慌てず焦らず一歩一歩前に進んでいきたい。




あんなに執着していた仕事も辞めた。


マンションも引き払って、今は実家で花嫁修行中。


今更足掻いても、無駄な事だけど、これも親孝行だって、岸田がそう言ってた。




正君、明日は正君の命日だね。


だから、敢えてその日を私達の新たな始まりの日にするよ。




正君の分も雨宮君を幸せにするから、ちゃんと見ていてね?





『冬子ぉ!?

雨宮さん、見えたわよぉ!』



階段の下から母が馬鹿でかい声で叫んでいる。



「はぁい!」



慌てて階段を駆け降り玄関に急ぐ。




「すみません、式前日の団欒中・・・」



「いいのよぉ、明日は忙しくて参れないでしょうから、冬子、キチンと挨拶なさいよ!?」



「解ってるわよ!
いつまでも子供扱いしないでよ!雨宮君、行きましょ」



雨宮君の腕を鷲掴みにして、正君に会いに行く為玄関を飛び出した。



「もぅ、何だかすみません。
じゃ冬子さんお借りします、行ってきます」



私に引き摺られながら、雨宮君は親に恐縮しながら頭を下げていた。











fin




2016.05.24










< 147 / 148 >

この作品をシェア

pagetop