雫に溺れて甘く香る
「聞いてるのか?」

「うん」

眼を鋭く細めたけれど、別に怒っているワケじゃないのは知ってる。

優しくしようとしてくれてるのも感じるし。

「だから、どれだ」

「うん」

「あのな……?」


あ、ちょっといらついたかな?


「おまえ……何が言いたい?」

「少し見とれてた」

微かに目が開いて、それから背を向けられる。


その広い背中も好きだな。

細身だけれど筋肉質なその背中は、何だかちょっぴり色気すら感じてしまう。

乱れた髪をかきあげて……ちらりと振り返る困った視線と目が合った。


「クリーニング屋に行くから、どれだか教えろ」

「え? いいよ。私が行くって」

どういう風の吹きまわし?

どういうこと?

え? そんな事は始めてじゃない?

「驚くな。それくらいはする」

「…………」

そ、そうなの?

でも、何だか続木さんが私のブラウスを持ってクリーニング屋に行く姿なんて想像できない。

うん。

だって、そんな事はしそうにないもの。

何て言うか続木さんって、善くも悪くも“生活感”がないって言うか……。

今は引き払ったけど、彼が前に一人暮らししてたマンションからも、その生活感のなさは漂っていたと言うか。

正直、引っ越しをしてきた時、段ボール5個ってどういう事かと思って我が目を疑ったよ。
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