あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


トイレを出て洗面台で口をゆすいだあと、キッチンで私を待っていた主任は、真剣な目をしていた。

「主任。すみません。ご心配お掛けしました」

笑って誤魔化そうとした私の腕をその大きな手のひらが掴んで、私を捕らえる。

もう嘘は見逃さないぞとでもいうように、瞳を覗き込まれた。

「中田。正直に言え。お前、本当に風邪か?」

「風邪ですよ?主任」

嘘だとバレたくなくて、私は強気の目で見つめ返す。

「中田」

しつこく彼は私の名前を呼ぶ。
触れられた場所が熱い。

……こんなにも好きなのだ。
迷惑なんて、かけたくないんだ。

「中田。本当のことを言え」

「だから、風邪ですってば!」

「中田」

「だから……わたしは……!」

何度か、言い合った。
主任は真実を語るように言い、私は嘘をついていないと言いはった。

「胃腸系の風邪。だから、大丈夫です!」

「……っ……綾音!」

不意に。
私の視線から主任が消えた。

突然、身体中に温もりが包まれる。
知っている温もり。

大好きな、温もり。

耳元で囁かれる。
綾音、と。

抱かれるときしか、言ってくれない私の名前を。

「綾音。お願いだから、事実を言って」

さっきまでの命令口調が懇願に変わったとき。

私の中の何かが溢れて。

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