アイ・ミス・ユー


鉄板を取り囲んでお酒を飲んで、屋外での開放感も相まってみんな笑顔だった。


普段、パソコンと向き合って華やかなポップやポスターを作ったり、会議室に缶詰になったりで笑い合うことなんてなかなか無いから、こういう機会って貴重なのかもしれない。


しかしながらお酒が入るということは、いつもは言えない疑問をぽろりと口にしてしまう危険な場であるということを、すっかり忘れていた。


もうバーベキューもほとんど食べ終えて、ダラダラとお菓子などをつまんでいた時に、3つ上の先輩である男性社員に何気なく尋ねられたのだ。


「今日は来てよかったー、楽しいよ。そういえば、お前の元彼が販促にいた頃はこんな和やかな雰囲気にはならなかったよなぁ。今も会ったりするのか?」


ピシッとその場の空気が凍りついた……ような気がした。
少なくとも、私はそう感じた。


お酒に酔った先輩の素朴な疑問ってところなのだろうが、なかなかのぶっ込んだ質問だった。


「え、えーと……」


答えに詰まっているうちに、先輩社員の饒舌な言葉が続く。


「小野寺さん……じゃないか、もう部長だもんな。めちゃくちゃ厳しい人だったけど、プライベートもあんな感じなわけ?」


悪気はないのは分かっているけれど、デリカシーのない質問だ。
こういうのがあるから、社内恋愛というのは別れたあとがけっこうキツいのだ。


健也の面子のためにも、それとなくいいことを言っておいた方が良さそうだ。


「誰でも仕事とプライベートは違いますから。みんなそうじゃないですか?」

「うわー、ごまかされたぁ。あの厳しい小野寺さんにどんな風に愛されたのか聞きたかったのに〜」


ドッと笑いが湧き上がる中、樹理は心配そうにこちらを見てくれていた。
その彼女にチラリと笑いかけ、私はどうにか笑顔でその場を乗り切った。


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