アイ・ミス・ユー
「どうも、お疲れ様です。販促部の綾川結子さんですか?」
たぶん、彼女とは面識はない……はず。
でも私のフルネームを知っていたので、反射的に「はい」とうなずいた。
綺麗な顔に、出来る女って感じのサッパリしたショートカットがよく似合う人だった。
「へぇ、意外。綾川さんってもっとツンケンしてる人なのかと思ってた。見た目は案外、癒し系って感じねぇ」
「へ?」
ほぼほぼ初対面の人にそんなことを言われるとは予想もしていなかったので、気の抜けた返事をしてしまった。
ついでに「癒し系」なんて言われたのも初めてだった。
彼女の物言いには、金子も少しビックリしたように目を丸くしている。
「あ、ごめんなさいね。私、開発部の小西巴です。えーっと、なんて言えばいいのかしらね。あなたの元彼の今カノです」
「……あっ、健也の……」
健也の婚約者。
そういえば樹理が言っていたんだった。
健也が結婚することになったらしい、と。
ついつい「健也」と言ってしまって、激しく後悔した。
「色々と健也に元カノの話を聞いてたから。相当長く付き合ったっていうじゃない。もったいなかったわね、健也ほどの男を手放すなんて」
「…………縁が無かったんです、きっと」
「ものすごく意地っ張りで素直じゃないって聞いてたから、どんな気の強い女かと思ってたのよ」
どんな言われ方してるんだ、私は。
健也に嫌われてしまったということだけは分かった。
なんか、悲しくて虚しい。
かつて好きで愛し合った人に嫌われるのって、付き合った期間を否定されたみたいで。
「社内恋愛って大変よねぇ、別れた後が面倒だもの。まぁ、陰ながら応援してるわ」
小西さんはすっかり「勝ち組」の顔で私に手を振り、金子には
「じゃ、販促部のとりまとめお願いね」
と肩を叩き、颯爽と事務所に戻っていった。