アイ・ミス・ユー
まぁ、そうだけどさ。
という金子の返事が聞こえるか聞こえないかくらいのところで、私は遮るように振り返った。
「それよりも。販促物の差し替えしないといけないんだから。早く事務所に戻らないと」
「うん。急ごう」
いつものように優しく微笑んだ彼は、まだ何か言いたいような顔つきではあったものの。
それ以上深く話すことはなく、私たちは販促部のある下の階の事務所へと移動した。
それからの事務所はてんてこ舞いだった。
すでに通っていた案は全ていったん白紙にして、金子の指示のもとで練り直してもう一度最初から。
悲鳴は上がったけど批判は起こることもなく。
不思議なことに彼の人望がそうしたのか、この半年の実績がそうさせたのか、わりとみんなすんなり受け入れていた。
もしかしたら金子は言い出したら聞かないというのを、みんな学んでいたのかもしれないけれど。
忙しさはこれまでの比じゃなく、私語を楽しむ余裕もなく無言で仕事に勤しんだ。