アイ・ミス・ユー
今野くんの目が物語っていた。
金子主任を探す時間がありません!
翡翠ちゃんの教育係になったおかげで仕事が全然進みませんっ!
だったら綾川さん、サブなんだから探してきてくださいよ!
お願いしますっ!
…………という彼の悲痛な心の声が聞こえた気がして、私は仕方なく重い腰を上げた。
「あーーーもう、分かったわよ。探してくればいいんでしょ。その間に他の仕事、ちゃんと進めててよね」
「わぁ、綾川さんありがとうございます!さすがです!先輩の鑑!」
「心がこもってない」
チッと聞こえるように舌打ちして今野くんの肩を軽くどついてやった。
すると彼は「まぁまぁ」と私の怒りを知った上で、いつもの爽やかな笑顔でごまかす。
「俺、教育係になって人に教えることの大変さをやっと学びましたよ。綾川さんもきっと今まですごく大変だったんだろうなぁって」
「君がそういうのは口先だけの男っていうのは、とっくの昔に知ってるからお世辞とかいらない。そんなこと言ってる暇があったら仕事して」
「出た、鬼発言」
「は?どこが?」
この男、いま私を鬼と呼んだぞ。
覚えてろよ、今野拓。
当の本人は翡翠ちゃんとクスクス笑い合ったりしている。
なんだかんだ気が合ってるじゃないの。
「今夜の歓迎会でたっぷり愚痴り合いましょう!楽しみにしてますから!じゃ、主任探してきてくださいね」
「私も飲み会、楽しみにしてまーす!」
調子よく言い放ち、今野くんと翡翠ちゃんは自分たちのデスクへと戻っていく。
彼らの言っている「歓送迎会」のことをすっかり忘れていた私は、慌てて販促部専用のホワイトボードを見やる。
今日の日付の隅っこに、『金子主任の歓迎会』とハートマーク付きで書いてあった。
しまった、忘れてた!
そういえば金子の歓迎会をやろうって酒田部長が言い出したんだった!
今日がその日であることが、頭から抜けてしまっていた。
私はツカツカとホワイトボードの前に立ち、必要ないであろうハートマークを指で消して事務所をあとにしたのだった。