アイ・ミス・ユー
この半月、金子がいつもぼやいていたことがある。
「主任って何をすればいいのかな。店舗の様子、見てきちゃダメ?」
それを言われるたびに、私は感情の無い声色でこう教えていた。
「部下の持ってきたレイアウトやディスプレイ案、それから企画書と処理伝の確認と承認作業が主任のお仕事です。他にももちろんたくさんありますよ。知ってます?主任って立派な役職ですよ?店舗に降りるのはひと通り承認作業が終わってからにしてください」
そうすると、彼は毎回困ったように笑うのだ。
「前の岩見沢店の時は空いてる時間はほぼ毎日店舗に立って、販売部の手伝いしてたの。だから本店でも店舗に立ちたいなぁって思ってたんだけど」
「バカ言わないでください。空いてる時間なんて主任にはありませんよ。見てください、この山のような書類」
「う、うん。見えてるよ」
「だったらつべこべ言わずにデスクワークに励んでもらえませんか」
手のかかる社長に秘書が冷たく告げるシーンなんかがよくテレビドラマとかで見かけるけど、金子と私はまさにそれだった。
私は間違ったことなんかひとつも言っていない。
申し訳ないけれど、本店の忙しさは他の店舗の比じゃないのだ。
取り扱うアイテム数からして桁が違う。
それぞれの部門も細分化されていて、そして社員数も断トツで多い。
おのずと上に立つ者は捌かなければならない仕事も増えるのだ。
つねづねそんなことを言っている金子が隙を見て席を外したとなれば、行く場所はひとつしかない。